A Cup Of Coffee


救いのない孤独
罪人に救済を与えられるのは
「裁き」か「愛」か…

『違う、キース・アニアン!あなたの罪じゃない!!』

どこまでも一緒に
本当にこの魂が救われる日まで
この人を守る。
それで自分は満足だから…

 

 

1.
キースの個室…奥にはキッチンがある。
ジョナ・マツカはキッチンの椅子に腰掛けて
頬杖をついてひとり考え込んでいた。

 

ミュウ殲滅作戦で爆発寸前のメギドからキースを連れて
ワープした。
傷を負ったキース。しかしさすがに回復力は人並みではなかった。

あのとき、自分の注意もきかずに、キースは
侵入した「伝説のタイプ・ブルー」に会いに行くといった。
忘れようのない、きれいなミュウ。
初めて対峙したときからずっとキースの心をとらえてやまないビジョン。
赤い瞳、銀の髪、しなやかな少年のような肢体、身のこなし…
そして計り知れない強力なサイオン能力。
この無敵の相手こそを。キースはずっと待ち望んでいたのだ!
《自分がいなければ、あのときキースは…》
ここで、マツカはどうしようもなく理解できない謎につきあたった。
あの時感じた「悪い予感」
それはキースが死んでしまうかもしれないというような
単純な危機感だけではなかった。
もっと根本的なうすら寒いようなイメージで。
キースの心に巣くった「闇」のような。
(キースの…願望?)
あと少しでその答えを見いだせそうなちょうどそのとき…

キースの思念波がマツカを呼んだ。

[どこにいる?マツカ]

壁のモニターに飛びつき、肉声で返事をする。

「キース!起きたんですか、良かった!今キッチンです。
何か飲みますか?」

久しぶりにキースの元気そうな声を聞けると、いそいそと
トレイの準備をしてモニターからのオーダーを待つ。

『冷たい水を』

「わかりました!」

タオルを熱い湯でしぼって、マツカはキースの部屋の扉を開けた。

 

 

2.
「きさまは見たか、あのタイプブルーを?」

 

一息ついて、ベッドに腰掛け、ぬぐった体に衣服もまとわずにキースがきく

「ええ、一度見たら忘れられないくらい印象的な瞳でしたよ。」

「マツカ、きさまはあれになってみろ。」

「?!」

思ってもみなかったいきなりの命令に、マツカはキースの目を見返した。

「できるはずだ、化け物として私を助ける力は強くなっただろう?」

嫌だと言っても無駄だ。メタモルフォーゼ−キースにもらったミュウの資料には
、自分の見た目を若いまま保つ能力の進歩型として記載されていた−こんな風に
自分の力を試せというのか。

(こんなときに…)

マツカは嫌悪感にため息をついた。

「どうした。気が進まないか?あれの姿になったきさまを相手にしてやろうという
のが」

(キース…また心にもない事を!)

上目遣いに暗い目をした後で、うす暗いルームライトの中に緑色のサイオン光が
まぶしくマツカの全身を包んだ。
やがて光が消えるとそこには紫色のマントをなびかせた少年が立っていた

「ほう、やればできるじゃないか。」

キースが今までとは違う、見たこともない形相で自分をながめる視線を
マツカは絶望的に感じた。

元気になったことを一緒に喜びたかった。

(どうしてこの人はいつも…)

キースの目が暗く光った。
唇をひきつらせて笑いすら浮かべて、
変化したマツカの姿にあきらかに高揚したキースは
ゆっくりと手をのばし、うやうやしく手招きした。


「来い…伝説のタイプブルー。」

 

いつしか自分は違う名前で呼ばれ、

いつもと違う顔でキースを見返し

いつもと同じか、もしくはさらに深い哀しい気持ちで

離れた所から自分とキースを見ていた。

暗い闇の淵に腰をかけて…

 

 

3.
気が付くとキースは隣で眠っていた。
自分の隣でだけゆっくり眠りにつけるということを
マツカは知っている。
(それでいい。)
そっとキースの髪をなおして強く思った。
この場所を誰にも譲らない、と。

 

キースがやがてうなされはじめた。
悪い夢を見ているのだろう。

思い出した。
答えはキースの願望。
心の奥底でこの人はいつか自分を抹消してくれる者を待っていた。
より強い力に裁かれ罰を与えられることを。
それによってのみキースは救われると感じているのか。
あるいは誰かを裁き、罪の意識から解放すること…
それが今の彼が待ち望む「愛」なのか。

抑圧されたキースの心は夢を見てうなされ、
ブルーを死に追いやってしまったことへの自責の念にかられている。


(そんなことまで…何故あなたが背負う必要があるのか)
伝説のミュウの姿のまま彼の背中をとんとん、と叩いた

[運命を信じたまえ、キース。
僕は僕の、君は君の信じた正義を貫くだけだ。
僕は死に、君はまだ生きている…
ただそれだけのことさ…]

ブルーに扮したマツカの想いは、ゆっくりとキースの思念を安定させ
安らかな睡眠へとキースを導いていった。

 

 

4.
いつの間にか、眠ってしまっていた。
マツカがベッドの上で目をあけると、キースは
もう起き出して、シャワールームから出てきた所だった。
「目覚めたな…『タイプ・ブルー』」
ちょっといたずらっぽい顔でこちらを見てキースが笑ったので
マツカは自分がゆうべの姿のままであることに気づいた。
あわててそそくさと飛び起きる。
「こ、コーヒーを、煎れますね…」
「その姿で、か?」
キースがさらにおかしそうに笑った。
久しぶりに見た、彼の笑顔。
ガウンに袖をとおしながら、キースが近づいてきた。
「もういいぞ、マツカ。きさまの能力は十分試せた。
元に戻れ。その格好で出されたコーヒーなど、
到底飲めたものではない。」

 

マツカは本来の姿に戻っても、しばらく
まだ寝起きのぼんやりとした頭で、自分をしげしげと眺める
どこか満足そうなキースの瞳を見つめていた。

「私が気に入っている一番の能力というやつを
久しぶりに発揮してもらいたいものだな…マツカ!」

少し大きな声とやさしいキースの思念が自分を包んで
びっくりして涙がでてきた。
(どうして、こんなときに涙なんか…)
初めて感じられたキースのやさしさに困惑しながら
命令を遂行するためにふらふらとマツカは部屋を出て行った。


うれし涙というのは、どうやらとめようとしても
なかなかとまらないものらしい。

いつものとっておきの豆で煎れたコーヒーを、一口、二口と
旨そうに飲んで、キースが言った。

「その鼻水は入っていないんだろうな?
いい加減顔を洗ってこい!まったくこの化け物め…」

感情的で困る、と言い捨てる声すら楽しげで。

憎まれ口も懐かしすぎて、笑ってしまってまた涙がこみあげてきた。

「はい、キース・アニアン!ジョナ・マツカ顔を洗ってきます!」

赤面して笑い泣きながら走り去るマツカの後ろで
キースの笑い声がした。


<了>2007.9.7 lluvia / Thanx a lot to Ayuko for your Special words !!

 

どんなにひどいことをされても言われても
この人は僕のもので
僕はこの人のものだ
誰にも傷付けさせはしない
連れていかせるものか

 

 

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